ビジネス環境のデジタル化が進む現代において、企業ネットワークへのアクセスは場所やデバイスに依存しないものへと変化しています。それに伴い、従来のVPNでは対応しきれない新たなセキュリティ課題が浮上しています。本記事では、VPNに代わる次世代のセキュアアクセスサービスとして注目を集める「CASB」と「SASE」に焦点を当て、その機能や適用シーン、導入ポイントについて詳しく解説します。
VPNに代わるセキュアアクセスサービスとは?
長らく企業ネットワークへの安全なアクセス手段として利用されてきたVPN(Virtual Private Network)ですが、クラウドサービスの普及やリモートワークの常態化に伴い、以下のような課題が顕在化しています。
- パフォーマンスの低下: クラウドサービスへのアクセスが増えるにつれて、VPNゲートウェイを経由するトラフィックが増大し、通信速度の低下を招きます。
- セキュリティの限界: ネットワーク境界を前提としたセキュリティモデルであるため、クラウド上のデータやSaaSアプリケーションへのアクセス制御が不十分になりがちです。また、VPN機器の脆弱性が攻撃対象となるリスクも存在します。
- 運用管理の複雑化: 多数のリモートワーカーや拠点が増えるにつれて、VPN接続の管理や設定が複雑になり、IT部門の負担が増大します。
このような課題を解決するために登場したのが、CASB(Cloud Access Security Broker)やSASE(Secure Access Service Edge)といった新しいセキュアアクセスサービスです。これらは、従来のVPNが抱えていた問題点を克服し、クラウド時代に求められるセキュリティと利便性を両立するソリューションとして期待されています。
CASB(Cloud Access Security Broker)とは?
CASBは、企業が利用するクラウドサービスとユーザーの間に位置し、クラウド利用におけるセキュリティを確保するためのゲートウェイソリューションです。 Gartner社が2012年に提唱した概念で、クラウドサービスの利用状況を可視化し、アクセス制御、データ保護、脅威防御などの機能を提供します。
CASBの主な機能
| 機能カテゴリ | 具体的な機能例 |
|---|---|
| 可視化 | - シャドーITの検出(企業が把握していないクラウドサービスの利用) - クラウド利用状況のモニタリング(誰が、いつ、どのクラウドサービスを、どのように利用しているか) - リスク評価(利用中のクラウドサービスのリスクレベル評価) |
| コンプライアンス | - データレジデンシー(データの保存場所)ポリシーの適用 - 監査ログの管理 - GDPRやCCPAなどの規制遵守支援 |
| データセキュリティ | - DLP(Data Loss Prevention):機密情報のクラウドアップロードや共有をブロック - 暗号化:クラウドに保存されるデータの暗号化 - アクセス制御:ユーザー属性やデバイスの状態に応じたアクセス制限(例:個人デバイスからのアクセス制限) |
| 脅威防御 | - マルウェア検出・ブロック:クラウドストレージへのマルウェアアップロード阻止 - 不審なアクティビティの検知(例:大量ダウンロード、異常なログイン試行) |
CASBは、特に多くのSaaSを利用している企業や、シャドーIT対策を強化したい企業に適しています。クラウド利用の可視化と制御を通じて、情報漏洩リスクの低減とコンプライアンス遵守を強力に支援します。
SASE(Secure Access Service Edge)とは?
SASEは、ネットワーク機能(SD-WANなど)とセキュリティ機能(CASB、FWaaS、SWG、ZTNAなど)を統合し、クラウド上でサービスとして提供するアーキテクチャです。Gartner社が2019年に提唱した概念で、ユーザーがどこからアクセスしても、一貫したセキュリティポリシーが適用されることを目指します。
SASEの主な構成要素
SASEは、以下の主要なセキュリティ機能とネットワーク機能をクラウド上で統合提供します。
- SWG(Secure Web Gateway): Webトラフィックのフィルタリング、マルウェア対策、アクセス制御。
- CASB(Cloud Access Security Broker): クラウドサービス利用の可視化、データ保護、脅威防御。
- FWaaS(Firewall as a Service): クラウドベースのファイアウォール機能。
- ZTNA(Zero Trust Network Access): ネットワークへのアクセスを「信頼しない」ことを前提とし、厳格な認証と認可に基づいたアクセス制御。
- SD-WAN(Software-Defined Wide Area Network): ネットワーク経路の最適化、パフォーマンス向上。
SASEの最大のメリットは、セキュリティ機能とネットワーク機能を個別に導入・運用する手間を省き、一元的に管理できる点にあります。これにより、運用コストの削減、セキュリティポリシーの一貫性確保、そしてユーザーエクスペリエンスの向上が期待できます。
CASBとSASEの比較:機能と適用シーン
CASBとSASEはどちらもVPNの代替として期待されるソリューションですが、そのカバー範囲と目的には違いがあります。
| 比較項目 | CASB | SASE |
|---|---|---|
| 主な目的 | クラウドサービス利用のセキュリティ強化 | ネットワークとセキュリティの統合、場所を選ばないセキュアアクセス |
| カバー範囲 | 主にクラウドサービス(SaaS, IaaS) | ネットワーク全体、あらゆるアプリケーション(クラウド、オンプレミス) |
| 主要機能 | 可視化、DLP、アクセス制御、脅威防御(クラウド) | SWG, CASB, FWaaS, ZTNA, SD-WANなど(統合型) |
| アーキテクチャ | ゲートウェイ型、API型、プロキシ型 | クラウドネイティブ、エッジサービスとして提供 |
| 導入の難易度 | 比較的導入しやすい | ネットワークとセキュリティの統合のため、大規模なインフラ変更を伴う場合がある |
| 費用対効果 | クラウド利用に特化した場合、コスト効率が良い | 長期的には運用コスト削減、セキュリティ強化に繋がるが初期投資は大きい傾向 |
適用シーンの例
- CASBが適している企業
- 多数のSaaSを利用しており、シャドーIT対策や情報漏洩対策を強化したい企業。
- 特定のクラウドサービス(例:Microsoft 365, Google Workspace)のセキュリティを深掘りしたい企業。
- 既存のネットワークインフラは維持しつつ、クラウドセキュリティを強化したい企業。
- SASEが適している企業
- リモートワークや多拠点展開が進み、場所を問わないセキュアなアクセス環境を構築したい企業。
- ネットワークとセキュリティの運用を一元化し、管理コストを削減したい企業。
- ゼロトラストセキュリティモデルへの移行を検討しており、包括的なセキュリティ強化を目指す企業。
- 将来的なビジネス拡張やDX推進に柔軟に対応できるインフラを求めている企業。
CASBは既存のセキュリティインフラにアドオンする形で導入しやすい一方、SASEはネットワークとセキュリティの統合的な改革を目指す場合に有効です。企業の現在の課題や将来のビジョンに合わせて最適なソリューションを選択することが重要です。
導入を検討する際のポイント
CASBやSASEの導入を検討する際には、以下のポイントに留意しましょう。
- 現状の課題と要件の明確化:
- どのようなセキュリティ課題を解決したいのか(例:シャドーIT、情報漏洩、リモートワークのセキュリティ)。
- 利用しているクラウドサービスの種類や数、オンプレミス資産との連携要件。
- 予算、導入期間、運用リソース。
- ベンダー選定と機能比較:
- 複数のベンダーから情報収集し、自社の要件に合致する機能を提供しているか確認する。
- 特に、ZTNA、DLP、SWG、FWaaSなどの主要機能がどの程度充実しているか、連携性はどうかを比較検討する。
- 導入実績やサポート体制も重要な選定基準となります。
- 既存システムとの連携:
- IAM(Identity and Access Management)やSIEM(Security Information and Event Management)など、既存のセキュリティシステムとの連携が可能かを確認する。
- スムーズな移行と運用のためには、既存環境との親和性が不可欠です。
- スケーラビリティとパフォーマンス:
- 将来的なユーザー数の増加やトラフィックの増大に対応できるスケーラビリティがあるか。
- ネットワーク速度やアプリケーションへのアクセスパフォーマンスに悪影響が出ないか、PoC(Proof of Concept)などで検証することも有効です。
- 導入計画とフェーズ移行:
- 一度に全てを移行するのではなく、リスクの低い部門やアプリケーションから段階的に導入を進めるなど、フェーズ移行計画を立てる。
- 従業員へのトレーニングや周知も忘れずに行うことが成功の鍵となります。
CASB/SASEの導入事例と今後の展望
国内外問わず、多くの企業がCASBやSASEの導入を進めています。
導入事例(架空)
- A社(従業員数1,000名、SaaS利用多数): シャドーITによる情報漏洩リスクとクラウド利用の可視化が課題でした。CASBを導入し、Microsoft 365やSalesforceなどの主要SaaSへのアクセスを制御。未承認クラウドサービスの利用を検知・ブロックし、DLP機能により機密情報のアップロードを防止。結果として、クラウドセキュリティレベルが大幅に向上し、情報システム部門の管理負担も軽減されました。
- B社(従業員数500名、リモートワーク推進中): 従来のVPNではリモートワーカーの通信速度が遅く、セキュリティポリシーの一貫性も課題でした。SASEを導入することで、ZTNA機能によりユーザーとデバイスの認証を厳格化し、必要なアプリケーションにのみアクセスを許可。SWG機能でWebトラフィックを安全に保ち、SD-WAN機能で通信経路を最適化。社員はどこからでも快適かつセキュアに業務を行えるようになりました。
今後の展望
CASBとSASEは、クラウドネイティブなセキュリティとネットワークの統合という点で、現代のビジネス環境に不可欠なソリューションとなりつつあります。Gartner社の予測では、2025年までに、SASEを採用する組織の60%がWeb、クラウドサービス、およびプライベートアプリケーションへのアクセスに一貫したポリシーを適用できるようになるとされています。
将来的には、AI/MLの活用による脅威検知能力の向上、IoTデバイスへの対応強化、そして5Gなどの次世代通信技術との連携によるさらなるパフォーマンス向上とセキュリティ強化が期待されます。企業がデジタル変革を推進する上で、CASBやSASEは今後もその重要性を増していくでしょう。
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